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どうして話を最後まで聴くことができないのか

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相手が話すことをただひたすら聴くということは、相手が投げるボールを受け取るということです。

それも最後まで。

会話はキャッチボールというから、お互いに受けて投げて受けて投げてができたら、それはもちろん楽しいです。
でも相手がまだ投げ終えていないのに、こちらからボールを投げてしまうとコミュニケーションはちょっとおかしくなってしまうことがあります。

聴くということは相手からのボールを受け取ろうという姿勢でありたい。
聴いているようでいて、相手にボールを投げたがってしまうと、相手は「聴いてもらえていない」と感じるんだと思います。

でも、どうして話を最後まで聴くことができないんでしょうか。
それは聞き手には聞き手の受け取り方があるからです。
その受け取り方は心の奥の方にあったりして、何かこう、ザワザワ、ワサワサとして聴いていられなくなるからです。

たとえば今日一日、汗水たらして一生懸命働いて、どうしようもなくしんどくて疲れたけれど、仕事が終わるころにふと空を見上げると、とても美しい夕日が自分を包み込んでくれて、「ああ、この瞬間のために今日一日の苦労があったんだろうな」と思えたとします。
その人はそれで最高の幸せを感じることができたとします。
そんな日に友だちから電話がかかってきて、「自分は家から一歩も出ないで、何のしなくてもお金をかせぐことができて、それで一生幸せに生きていたいと思うんだ。なぜそう思うかというとね……」という話を延々と聞かされるとすると、どうでしょうか。

最後まで聴けないかもしれません。
相手が話してくるその話によって、何かこう、ザワザワ、ワサワサしてきて聴いていられません。
そのザワザワ、ワサワサする気持ちのことを心理学では「コンプレックス」といいます。
コンプレックスというと、足が遅いとか勉強ができないとかいう劣等感の意味がありますが、心理学的なコンプレックスという意味はそれよりももっと広い意味です。
複雑にいろどられた心的複合体といったりしますが、何かの出来事にたいしてザワザワ、ワサワサとする複雑な心の「何か」です。

オレンジ色の服を着た人を見るとイライラするという人がいます。
あまりいないと思いますが、そういう人も世の中にはいます。
もしかしたらその人は過去に何かオレンジにまつわる嫌な出来事があったのかもしれないし、それは何かわかりませんが、オレンジというものに心がザワザワするんです。
それがコンプレックスです。

さて、
話を聴くというとき。

話をしている本人は、当然ですがその人本人の話をしています。
自分の話。

話を聴くときは、聴いているこちらとしてはその話し手の人の話に興味があるわけです。
「昨夜食べたカレーがめっちゃおいしかった」話をその人がしているとしたら、私は例えばカレーに興味があるわけではないです。
どんなカレーだったのかにも、そこに興味があるわけではありません。
それは「わたしにとって」で聴いてしまっているように思うのです。
私の心の中にあるカレーのことで、相手の話を聴いています。
それでも聴けるときはあるんでしょうし、それで会話がお互い楽しくなるなら、それが何よりです。

けど、私が今ここで言っている「話を聴くという姿勢」の話はそれではありません。
私が興味のあるのは「その人が昨夜食べたカレーの話を、その人はどんな視点で、その人なりのどんな感覚で、しているんだろう」ということです。
カレーの話をその人がチョイスしたかった理由とか、その人にとっての美味しいかレーとはどういうものなのかとか。

同じ世界に私たちは生きているようでありながら、実はこの世界の中で私が見ている風景とあなたが見ている風景はちがっています。
あなたが感じることと私が感じることはちがいます。
そして、話を聴くということは、相手が見ている風景や相手が感じる感じを理解しようとすることです。

相手にも見えている風景や感じる感じがあるのと同じように、私にも見えている風景や感じる感じがあるわけなので、相手の話を聴いているときにその内容によっては、なかなか相手の視点、相手の感受性に寄り添えないときがあります。
それはたぶん、こちらサイドにコンプレックスがあるときです。
コンプレックスはたいてい、無意識の奥の方に押し込まれているので、「これがわたしのコンプレックスだ」とはなかなか気が付けず、けっこう自分自身を内省する訓練が必要です。

でも、それは自戒の念もふくめ大切にしたい心構えだなと思います。
相手の話を聴きながら、こちらのボールを相手に投げようとしてしまわないように。

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【執筆者】 心理カウンセラー 島 幸樹(しま さちき)
Heart Trust Communication 代表。対人関係・コミュニケーションのセミナーや研修、また、教育に関連するテーマの講座と心理カウンセリングを主に行っている。人間学、臨床心理学を大学で専攻し、卒業後は学習塾の講師、教室長、また経営に15年携わり、多くの子どもたち、保護者の方たちと関わる。2017年から心理カウンセラー、心理学講師として、子どもの不登校、ひきこもりの悩みを抱える親御様、また職場の人間関係等でメンタルヘルス不調を抱える方々へのカウンセリングを行っている。
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